――わざわざ、ありがとう。お借りしているパソコンは今日のデータを処理して後程、総務部へ返しに伺います


メモ帳には、ペン習字のお手本のような美文字。


――うわおっ、綺麗な字


私は頷いて、彼にパソコンを手渡しながら、首を傾げる。

彼はパソコンを受け取り、膝の上に置き、姿勢を正して手を動かす。


――えっーと、今の手の動きは確か……手話の「ありがとう」だったかしら


思ってみるものの、さっきと言い、今と言い、何故メモ帳に?
何故、筆談だったり手話なのかがわからない。


「あの……結城さん、つかぬことをお伺いしますが何故、筆談なんでしょう!?」

単刀直入に訊ねた私。

彼は再び、さらさらとボールペンを走らせる。


――声が出なくて喋れないので、筆談です。すみません


「えっ、えーーーっ!? 喋れないんですか?」


思わず大きな声で叫んでしまい、慌てて口を押さえる。