「みっともないなんて思いません」

咄嗟に言うと「ありがとう」と言う手話に合わせて、口を動かした。

助手席に置いた紺色のキャリーバックの中、酸素ボンベに繋がった管を引き出し鼻に入れて、酸素ボンベのバルブを捻る。

結城さんは安心したように、深いため息を吐いた。


――新宿まで行くが、いいか?


「はい」

結城さんは頷いてエンジンを掛け、カーステレオのスイッチを入れ、車を発進させる。

一方的に喋るわたしの声が車内に響く。

信号待ちで停まるたび、素早くメモで返事をする結城さん。

書き慣れた文字とメモを書く速さに驚く。

アフター6はどうしているかという質問に、週3日がリハビリで、土日は執筆だなとこたえてくれた。

図書館や美術館、歴史館などには、よく出かけるらしい。