――亡霊が相手ではね


その言葉が、何度も頭の中をリフレインする。

ついさっき、ランチを食べながら聞いた「麻生紗世」さんへの結城さんの思いを哀しいと思った。

亡くしたショックで、喋れなくなるほど愛していた人――それほど愛されていた「麻生紗世」さんが、どんな人だったのか?

結城さんは訊ねたら、話してくれるだろうか?

結城さんに訊ねることは、結城さんの心の傷を広げてしまうだろうか?

色んな思いが、胸に込み上げてくる。


「和泉さん、結城くんは新入社員にはやさしいのよ」

パソコンを立ち上げ打ち始めたわたしを、田中さんが見下ろして立っていた。


「少し親しくされたくらいで、いい気にならないで」

田中さんが捨て台詞のように言って、ヒールを鳴らし離れていく。