田中さんが薄く頬を染めたまま、結城さんの目を見つめる。


――はい、お気遣いありがとうございます。
俺も仕事に戻ります。時間取らせてすみませんでした

結城さんは、田中さんがメモを読み終えるのを確認すると、深々と頭を下げた。

そして、わたしには手話で「ありがとう」と、ゆっくり丁寧に挨拶した。

結城さんが総務部を去った後、田中さんは大人しく席に戻り、放心したように頬杖をついている。


「田中さんは、結城くんが新入社員の時に指導係だったらしいわ」

席についたわたしに、女子社員の声。


「すっかり骨抜き状態ね……ホの字って噂。だけど、ライバルが亡霊ではね」

囁くように耳打ちする。


「親しくしてるなら、彼はやめておきなさい。どんなに思っても落ちないわよ」

田中さんを見つめながら話す女子社員の言葉は、やけに冷ややかだった。