「――結城くん」

田中さんがパッと手を引っ込め、薄く頬を染めて俯く。

うわぁーっ、凄い。総務のお局様が頬を染めるなんて……わたしは頭を下げたまま上目遣いで、その様子を見る。

さすが、社内の若手1のイケメンと言われるだけあるなと思う。

40歳を過ぎ、普段は小言たらたら後輩社員をイビるオバサンだ。

若くてイケメンの男性社員には愛想が良く、上司にはペコペコ心にもないおべっかを使う。

上司が黒と言えば黒、白と言えば白、コロコロと言い分を変える。

陰で気に入らない上司の悪口も散々に言っていたり、後輩に同意を求めたりもする。


――総務部は有能な女性が多くていいですね。田中さんの指導が行き届いてるのがわかります

結城さんはつらつらと、ペン習字のお手本のような美文字で筆談する。


「結城くん、無理しちゃダメよ」