返事はない。


「あの~、すみません。結城さん、総務部です」

言いながら、寝ている結城さんの肩をトントンと叩く。


彼はピクッとびくついて、体を強張らせ、目を開けた。

色素が薄めの薄茶色の大きな目が、怯えたように私を見てる。

胸に手を当て、半身を起こし、肩で忙しく息をつく。


「由樹!?」

彼の様子に慌てたように、銀縁眼鏡の女性が、血相を変えて、彼に駆け寄る。


「由樹、大丈夫?」

女性は言いながら、彼の背中を優しく丁寧に擦り始める。

編集部のお局様。
「黒田芽以沙」かつては、鬼編集と言われた女傑。


「由樹に何か?」


「あ、あの、そ、総務部なんですけど、修理に出されていたパソコン……」

言い掛けた私の言葉に頷いて、黒田さんが彼にサッと、メモ帳とボールペンを手渡す。

彼は胸に手を押し当てたまま、さらさらとボールペンを走らせて、サッと私に向ける。