喋れていた頃以上の仕事はしていると自負できる。

「終わったな」などと言われるのは心外だ。

同情や蔑みなど、される謂れは全くない。

理学療法士は、リハビリのたび俺に心療カウンセラーを奨める。

リハビリ効果が無いのは、心因性ではないかと。

大きなお世話だ。


正直なところ俺は、喋れるようになることを半分、諦めている。

自分の声が、どんな風だったかも思い出せない。

病院を出て、車を走らせ、家路を急ぐ。


――結城さん、アフター6は何してるんですか?

彼女は配属されて間もない頃、訊ねた。

あの時は、色々と詮索されるのが面倒で……茶化したように「誘っているのか?」と訊ね返した。

彼女は驚いたような顔をした後、笑顔で言った。


――ニュートンホテルのケーキバイキングが食べたいです

笑いが止まらなかった。


スマホの着信音が「オリビア」を奏でる、静かに……。