社内外では、俺のことを「声を忘れたカナリヤ」と呼んでいるらしい。


「万萬詩悠」のゴースト疑惑謝罪会見。

自ら「結城由樹が万萬詩悠だ」と正体を明かして、聴唖障害を偽ったことを謝罪した俺。

黒田さんの事故を間近に目撃した衝撃で喋れなくなり、1年半ものリハビリに耐えた。

万萬詩悠のペンネームで群青小説新人賞に投稿した時は、本当に喋れなかったと釈明したのは、当たり前に喋れるようになって、やっと1年弱だった。


その謝罪会見から、僅か3ヵ月余り。
作家「万萬詩悠」としても、起動に乗り始めたばかり。

なのに……。
俺は再び、声を失った。


「結城由樹は終わったな」と、散々噂されながらも、俺はベストセラー作家「西村嘉行」「梅川百冬」などを担当し続けている。

自らも万萬詩悠として、女流ベストセラー作家「沢山江梨子」と紙面を競い、月刊誌の売上に貢献している。