「しっかり、喉を開けて息を出して」

理学療法士が、風船を膨らませようとする俺に発破を掛ける。


聾唖の発声訓練には、風船を膨らませる訓練がある。

風船を膨らませるための、息を思い切り吸い込み吐き出す、腹式呼吸は有効だと言われる。

だが……俺には、その腹式呼吸が上手くできない。

心臓疾患による、循環器と呼吸器の機能低下で、腹式呼吸どころか、呼吸自体が辛い。

口に加えた風船は萎んで平らなまま、全くと言っていいほど膨らまない。

酸素を吸ったり吐き出したりを繰り返すうち、息苦しくなり目眩がしてくる。

1時間のリハビリを、休み休み何回かに分けて行う。

理学療法士は、いつも苦い顔をする。

俺には以前、どのように声を出していたのかが、わからない。

意識して声を出していたわけではないし、意識して懸命に、声を出そうと頑張っても、声は全く出ない。