バックミラー越しに見えた和泉の姿。

一瞬、もう会えない女と被る。


――あいつは、あんなにトロくなかった

「結城さん」と明るく呼ぶ声を思い出し、名前を呟く。

助手席に座っているのが、当たり前だと思っていた……。

よく動く表情が面白くて、ついからかってみたくなった……。


――彼女は……もう居ない


こみ上げてくる空虚さが堪らなく悲しい。


雨の交差点、青信号で突っ込んできた車の運転手。

俺は殴りかかり胸ぐらを掴んで、睨むことしかできなかった。

文句1つ、怒鳴り声1つ、言えなかった。


――返してくれ、彼女を


あの日の声にならない言葉と、激しい胸の痛みと息苦しさは、今でも忘れない。

問題の交差点には、未だに近づけず、迂回して目的地へ通う。

自分のメンタルの弱さが情けない。