編集長の後ろ。
電波時計は17時半。

俺は書類を任せた加納の肩を叩く。


――どう?

メモ帳に、ボールペンを走らせる。


「もう少しで出来上がります」


――焦らなくていいから


「はい」

加納は緊張気味にこたえて、作業を進める。


「由樹」

黒田さんが、席に戻る俺を呼び止める。

振り向いた俺に、黒田さんは手話で伝えてくる。


――西村先生から電話なんだけど「昼間に君、おかしなことを言ったよな。確か銀田末の感じたスープの味気無さも判明できていないって。気になるから明日、家に来て」って。どう、行ける?

あのエロおやじ、頭を使って自分でしっかり考えろと、思い切り言ってやりたい。

だが、俺はそこを抑えて、手話でこたえる。


――わかったと伝えてください

少し離れた場所なら、声を出さず、メモを書く必要もなく、要件を伝えるには手話って凄く便利だと思う。