――此処と此処、漢字ミス訂正。で、此処が脱字。此処とこっちは意味が二重……


書類を机に置き、諸々チェックを入れ、赤と黒のボールペンで色分けしてメモを書く。

書類はたちまち、赤ペンに染まる。

喋れないことが、仕事を教えたり、間違いを指摘したり、説明しようとするたび、もどかしい。

伝わっているかどうかが、いつも不安になる。


「すみません、修正してきます」

素直に納得してもらえると安心する。

何より困るのは電話だ。
先方から電話がかかってきても受け答えができない。

誰それから電話があったと伝言をもらっても、掛け直すことができない。

俺が喋れない事情を知っている先方には、メールやパソコン、ファックスで、何とか連絡や対処が成り立ってはいる。

が、急ぎや突発的な連絡やたまにしか、やり取りのない先方への対処が厄介だ。