結婚適齢期、30才前。
弟の俺が言うのも何だが、料理は抜群に上手いし、家事は完璧だし、性格も申し分無い上に、頭もキレる。

おまけに凛々しい系の美人なんだが……。

俺のことが心配過ぎて、言い寄る相手を断り続けているようだ。


……仕事中だと思う


俺は手話を使ってこたえる。

編集長初め、編集部の主だった面々は有難いことに、喋れなくなった俺のために日常的な手話を覚えてくれている。

とくに、黒田さんと相田さんと編集長は普通に、手話を使っても問題なく理解してくれる。


「由樹。沢山先生はお前のことが余程お気に入りなんだな。ずっと居てくれても構わないわよなんて、俺にだって言わない」

俺は黙って聞いている。


「沢山先生な~。離婚の理由、旦那のDVなんだ。男性不信で、あんなに至近距離で、しかも手を握りしめるなんてのは、お前にだけだろうよ」