沢山江梨子は言いながら、俺の側に寄り、体を屈める。

ぎゅっと俺の手を両手で握りしめて、顔を見つめてくる。

発作で弱っている時でなければ、払いのけてやるのにと思うが、そうする元気もない。


「先生、それはちょっと……。かなり調子悪そうなんで、送ってきます。送ってきしだい戻ってきますから、執筆進めててください」


「そう、残念だわ」

相田さんに支えられ、沢山江梨子のメイドにも手を借りて、俺は漸く異様な香り放つ沢山江梨子のマンションから解放された。

外の空気をこれほど、清いと感じたことはない。

体がふらついて、力が入らない。

相田さんがやむなく俺を背負って、何とかマンションの駐車場に辿り着く。

相田さんは俺を助手席に押し込んでシートを傾ける。

メイドから俺の鞄を受け取り、後部座席へ放り投げて、酸素ボンベの入ったキャリーバックを俺の側に置く。