今まで、沢山江梨子に知られていないことが、そもそも不思議だ。

沢山江梨子の今回の目的は、心臓病の主人公のイメージを膨らませることだ。

ミッションはクリアできるじゃないか。

この先、沢山江梨子とは〆切ギリギリになるたび、否応なしに呼び出される。

そのたびに、とんでもなくキツい香水の匂いを嗅がされて、半殺し気分を味わう……。

それに俺は早く、此処から解放されたい。

そう思うと、俺は素直に頷いた。

「由樹、いいのか? 知られても」

俺はふるふると、首を縦に振る。

「沢山先生、お察しの通りです。結城は生まれつき心臓が弱いんです」

相田さんは俺の背をしきりに擦りながら、訴えるように話す。


「結城が先生にご心配かけたくないと言うもので、今まで隠してたんです」


「まあ、そうなの。結城くん」