「わかるかしら? ベルサイユっていう名前の香りなの」


――高貴な名前の香りですね


メモを書いて沢山江梨子に見せながら、香水の匂いに噎せて、咳が出る。


「あら結城くん、風邪?」


――いえ、気管支が少し弱いので


どう選んだら、こんな香水の匂いを……思いながら、目眩でクラクラして、立っているのがやっとだ。


「由樹」

心配顔の相田さんに支えられ、ソファーに座る。

息苦しさで、咳が連続する。


ヤバい……ガチで調子悪い。


「結城くん!?」


――すみません


沢山江梨子が席を立ち、俺に近寄ってくる。

彼女自身の身に纏う香水が、更にキツい。


……先生

呟いた言葉は声にならない。

ボールペンを握ったものの、メモを書く気力もない。


「おい、由樹!?」

相田さんが「マジかよ」みたいな顔で、俺の顔を覗きこみ、背を擦る。