「1度にたくさん望んではダメですよ。やっと声が出るようになったんですから。良かったですね」

「ああ……紗世のご両親から『君は幸せになれ』と言われた。自分自身が不幸だと思ってはいないし、今は紗世を忘れるなど考えられない。だが……君の美味しそうに食べる顔は好きだ」

和泉の顔が耳まで真っ赤だった。

「自分が経営側に着くなど考えもしなかった。社員を背負うことなどないと思っていた。残業など人ごとだと思っていたが……これからは残業する側のことも考えなきゃな。君のように残業を押し付けられている社員のことまで、考えていける経営者でありたい」

「結城さん、わたしトロい社員代表なんですか?」

「はあ? 違うとでも思っているのか? 君の愚痴や小言は大いに参考になる。これからも息抜きがてら、飯を一緒に食べてくれないか」

「結城さん!?」

和泉のドングリ眼が妙に可笑しかった。