ミステリーの大御所「西村嘉行」やハードボイルド作家の「梅川百冬」の担当で、彼らから全幅の信頼を寄せられているらしい。

女流作家の沢山江梨子は、執筆に行き詰まると、担当経由で結城さんを呼びつけ、彼の仕草を観ながらイメージを膨らませたり、アイデアを思い浮かべるらしい。

余所の出版社の担当が、結城由樹の後には、作家宅へは行きたくないと嘆いているとも聞く。

それから、結城さんは入社以来1度も残業をしていないって噂もある。

かつては「鬼編集、黒田芽以沙」と名を轟かせた黒田さんが、結城さんには敵わないとも聞く。

あんなに優しそうな人が!?って不思議でたまらない。

パソコンを打ち始めて、約50分。

私の席の内線電話が鳴った。

「はい、和泉です」


「黒田だけど、今から由樹が書類を持って行くわ」


「えっ!? もう……いえ、私が行きますから」