「!? 由樹、貴方──声が……」

「あっ──」

俺は詩乃に言われ、ハッとして喉に手を当てた。

声が出なくなって以来。

何度も検査し、治療をし、リハビリに通い、心療カウンセリングも受けてきた。

何をやっても、どんな薬も全く効かなかった。

もう喋れるようになることはない、もう声はでないかもしれないと思っていた。

掠れて嗄れた、何処かで空気漏れし間の抜けた頼りない声だった。

喋れていた時、自分がどんな声だったかを思い出せないのに、自分の声だとは思えなかった。

俺は自分の声の酷さに戸惑い、声が出るようになったことを素直に喜べなかった。

詩乃が「良かった、良かったわね」と子供みたいに、声を弾ませた。

会見会場に車を走らせる間、俺は紗世の顔を思い浮かべながら、タイムリーに届いた花束のカラクリを考えていた。