(結城さん、お誕生日に何がほしいですか?)

(そうだな──紗世のとびっきり驚いた顔と笑ってる顔が見たいな)

ふと、そんな会話をしたことが思い浮かんだ。

あの時の会話の続きが(結城さんが那由多賞を受賞したら、わたし飛び上がって喜びます)だった。

那由多賞発表の今日は俺の誕生日で、明日が紗世の命日だと思うと、何の因果かと思う。

キッチンから甘い香りが漂い、詩乃の鼻歌が聞こえる。

詩乃は俺が那由多賞を受賞すると信じきっているらしい。

すっかり温もってしまった冷却シートを取り替えようと、部屋を出る。

詩乃が振り向き、サッと冷蔵庫から冷却シートを取り出し、俺に手渡そうとした。

『大丈夫だから。氷を1つ、喉が渇いて』

詩乃は頷き製氷室を開け、氷を指で摘まむと俺の口に入れた。

氷の冷たさが口いっぱいに広がり、頬に手を当てた俺に詩乃は目を細めた。