俺は胸元に手を入れ、体温計を取り出し体温を確かめ、すぐさまリセットボタンを押した。

『微熱だ。休んでいれば下がる』

答えて解熱剤を飲んでおこうと思いながら、朝食を食べ終えた。

部屋に戻り、横になっていると詩乃が冷却シートを持って入ってきた。

「いつもより熱があるでしょう? 冷やしておきなさい。那由多賞に選ばれて出かけなきゃならないかもしれないんだから」

『本気?』

「最有力候補だという噂でしょう『空と君との間には』は」

『そう簡単に選ばれるわけがないだろ』

俺は冷却シートを受け取り、詩乃に背を向けた。

もしも本当に受賞できたら、真っ先に紗世に知らせるだろうなと思った。

コンツェルンと編集部の掛け持ちで疲労しきっているのに、目が冴えて眠れない。

紗世を初めて見た日のこと、声をかけた日、紗世が編集部へ配属してきた日のこと……紗世と過ごした日々が次々に思い出された。