発売日の前日、俺が表紙の裏に添え書きし持って来たものだ。

紗世の両親は俺に「いつまでも紗世のことで貴方が苦しんでいるのは見たくない」と言う。

「貴方が喋れなくなったこと、きっと紗世も悲しんでいる。早く吹っ切って。貴方が幸せでないと紗世もうかばれない」

俺を慰め、俺を励まし明るく振る舞う。

「空と君との間には」が那由多賞候補になった日も、紗世の家に来た。

「夢ではないのね。紗世の願いが現実になろうとしているのね」

紗世の母親は笑顔のまま、涙ぐんだ。

──ずっと書きます。書き続けていきます

改めて誓った。

編集から離れることも、那由多賞の結果が発表されたら報告に行こうと思っている。

紗世は俺にとって、愛しい人であり戦友だった。

唯一、何でも腹を割って話せる存在だった。

どんな時も前向きで楽観的な彼女の明るさが、俺の凍りついていた心を溶かした。