涙で濡れた顔を向けたまま、和泉の目が俺を睨んでいた。

──那由多賞か。受賞できたら紗世の墓前に報告する。それに3周忌がまだだからな

文字にしてみて、ああそうだと思った。

紗世の家には、月命日に必ず手を合わせに行っている。

訪ねるたびに、紗世の両親は俺の体を気遣い「毎月来ていただかなくても」とすまなさそうだ。

紗世の部屋は生前のまま、手がつけられていない。

俺が紗世に渡したマニュアルは事故の日も、紗世の鞄の中にあったそうだ。

大事なものだったのだろうと、柩に入れられた。

他には万萬詩悠の作品「限りなくグレーに近い空」も、「空と君との間には」の更新分までの原稿コピーを入れてもらった。

紗世の本棚には「限りなくグレーに近い空」が数冊収められている。

机の上には真新しい「空と君との間には」が置かれている。