『息抜きに会いにきますよ。作家業は続けていくつもりですし』

「那由多賞候補の有望な作家だ。そろそろ結果発表だろう」

西村嘉行は三段腹を揺らした。

梅川百冬はパソコン教室に通い始めた。

霜田奈梨子は「残念ね、あなたのヴァイオリンを生で聴けないのは」と、1曲リクエストした。

桜居かほりは、もう1度カクテルをご馳走してほしいと言った。

社内では有給を使ってコンツェルンに通う俺の事情を知らない連中が、休みが多いと噂している。

「結城さん、体の具合良くないんですか」

6月末の定時直後、和泉が心配して編集部に訪ねてきた。

──いや、体調は平行線だ。特に変わりはない。父が倒れてコンツェルンを補佐することになったんでね。今、向こうとこっちを掛け持ちしている

筆談で伝える。

「会社……辞めちゃうんですか」

──引き継ぎが終わりしだいな。来月いっぱいには