「お父様はあなたが那由多賞候補になっていることも、仕事が順調なこともご存知だけど、兄たちよりも頼りになると見込んでいらっしゃるのよ」

俺は詩乃の話を押し黙って聞いていた。

「兄たちは交渉も、部下や重役への対応や采配も荒くて機転が利かないが、由樹にはそういった面倒ごとも丁寧に迅速にやってのける器がある。兄たちの居ない所で、コンツェルンの後継は由樹をおいて他にはいないと、話していらしたわ」

俺には到底信じがたい話だ。

常々、父は俺に言っていた。

「お前のような軟弱者はコンツェルンを継げない。お前には何万という従業員を抱えられない」

そう言われ続けてきた。

『何だよ、それ』

「由樹。あなたでなきゃ、お父様を支えられないのよ。お父様の側に居てあげて」

『俺は会社のことを何も知らない』

「そんな事、あなたなら1ヶ月もあればじゅうぶん把握して采配を奮えるでしょう!?」