「だが今より忙しくなるぞ」

編集長が「那由多賞」受賞を前提に、心配しているのが、ありありとわかる。

『編集長、審査結果は1ヶ月先です。欲しい賞ではありますが、俺なんかが易々と受賞できる賞ではないですから』

「お前は謙虚というか……自分の実力を自覚していないのか。お前の作品を大御所が揃って絶賛しているというのに」

相田さんが大げさに身振りをつけ、もったいないという表情で言う。

『書きたいことや胸の内を好き勝手に吐き出している作品ですから、俺は何とも言えません』

俺は手話で答えながら、ひたすら冷静になろうとしていた。

那由多賞候補、紗世が居たらきっと大騒ぎしながら喜んだろうと思う。

絶対に受賞できますよと、はしゃいだと思う。

あの紗世との約束「那由多賞を取って、ずっと作家でいてくださいね」を必ず叶え、俺は作家で居続けたいと思った。