編集長も相田さんも、よく観ているなと思う。

同じことを数回伝えても理解しない奴もいるし、同じ間違いを繰り返す奴もいる。

だから、個々の能力や性格に応じて教え方を変えているし、マニュアルも工夫している。

自分で仕上げた方が明らかに早いし確実なものも、敢えて後輩にやらせ、様子を見る。

教えること、人材を育てることはマニュアル通りにはいかないと実感している。

黒田さんや相田さんが彼らを外回りに連れ出し、実践で彼らを指導してくれるなら、実に有り難いと思う。

俺が卓上で指導していることは、実践で何処まで通用するのだろうと、いつも思う。

「由樹、もし那由多賞を取ったらどうするんだ? 作家業に専念するのか」

相田さんが心配そうに、眉間に皺を寄せて訊く。

『いえ、俺は仕事を続けていきます。編集の仕事は良い刺激になるし、息抜きにもなるので』