和泉はコンサートの熱気は凄まじかったと振り返る。

熱狂的なファンが最初から最後まで、各々デコレーションした団扇や扇を手に、声援を送る様子にはただ呆気にとらわれていた。

金管楽器の生演奏を期待していなかった和泉は、その完成度の高さに「すごかったですね」と、感想を述べた。

──楽屋へいこうか

「えっ!? いいんですか」

──小説のネタを取材に行って懇意になった。チケットのお礼を言いたいんだ

会場やロビーに溢れる興奮したファン達を掻き分け楽屋へ向かう。

結城はメモを上着の内にしまい、サッと和泉の手を取った。

厚みのないヒンヤリとした冷たい手がギュッと和泉の手を握りしめる。

両手の塞がった結城は無言で楽屋へ急ぎ、楽屋の扉前で立ち止まり、扉を3回ノックした。