受賞の知らせの際、聴覚障害で喋れない「聴唖」の作家として有名になった。

デビュー作「限りなくグレーに近い空」はベストセラーになったが、以来1年余りヒットがなかった。

当社、円山夏樹出版社発行の隔週刊誌「小説 野草」に、連載中の「沢山江梨子」執筆する「空を詠む」の人気が低迷気味になり、「野草」の売上が減り、「空を詠む」にぶつけて、万萬詩悠の連載が始まった。

それが「空と君との間には」だった。

連載が始まって間もなく、結城さんにゴーストライター疑惑がかかったという噂も就活で、出版社巡りをしていた時に何度か聞いた。

円山夏樹出版社主催の記者会見で、結城さんが編集長と社長と並んで、謝罪したのを覚えている。


――「すみませんでした。
今まで万萬詩悠が聴唖と偽り、作品を書いていました。
1年半前。同僚の事故を目撃した衝撃で突然、喋れなくなり、リハビリをしていた時。
群青小説新人賞を受賞させていただきました。
故意に嘘をついた訳ではありませんでした。
1年半余り、手話と筆談でしか話せなかった……」