こちらが呆気に捕らわれてしまうほど澄まし顔だった。

──まあ、昼間っからズボンの中身を濡らしているよりマシでしょうけど……なんなら、癒やしてあげましょうか?

結城さんの目は笑っていなかった。

──ベッドの中で宜しくやって原稿がもらえる、そんな生半可な作家なら俺は担当をやっていません。作家は心血注ぎ寝る間を惜しみ命を削り、作品を生み出すんです。それがわからないなら、出版社社員をやめたらどうですか

癖の無い穏やかで整った美しすぎる文字が男子社員達を冷たく突き放すみたいに、結城さんの瞳にも恐いほどの怒りが満ちていた。

男子社員は口をパクつかせ、あたふたと出口へ向かった。

結城さんは何事もなかったように目を細めて、わたしに近づいた。

画用紙を脇に挟み「ありがとう」の手話をし、肘まで捲り上げたスーツの袖口から伸びた細い腕が、わたしの頭をポンポンと撫でた。