「悔しいわよ。悔しいけれど……そういう噂があるのは確かだから」

田中さんの声には、いつもの傲慢さも険しさもなく、張りもない。

「自分が面倒を見た後輩を信じていないなんて。見損ないました」

田中さんは手首を掴んだ手を離し、唇を震わせている。

「こんな失礼な人達、水を掛けただけでは足らないくらいです」

こちらを睨みつけ、見下ろしている男子社員の肩越しに、結城さんの姿が見えた。

ハッとし、火照りが冷めていき、急に恥ずかしくなった。

わたしの目線が自分達を通り過ぎ、後ろにあることに気づいたのか、男子社員は後ろを振り返った。

「結城!?」

引きつった声は驚きとも怯えともつかず、掠れていた。

──水も滴るいい男ですね。でも、水浴びするには時間が早過ぎませんか

スーツ姿で酸素ボンベの入ったキャリーバックを引いた結城さんは、サラサラと画用紙に書いた文字を見せた。