「優等生の考えは聞きたくないわね。原稿チェックで吐き気を堪えるほど拒絶反応を起こしているのに。先生のご意見は伺ったの?」

戸惑う結城にはお構い無し、黒田の口調も目も険しい。


『いいえ、未だです。でも……』


「自分の思いを伝えることも大事だわ。貴方はこの描写に嫌悪感を覚えた――拷問の内容は事実だったかもしれないけれど、激しすぎる描写はマイナスだと思うなら、意見として伝えなさい」

結城は今まで、トリックの矛盾点や疑問はその都度、指摘し解決してきた。

西村の文章に、今ほど違和感と嫌悪感を覚えたのは初めてだ。


「担当として貴方が感じていること、遠慮せずに。自信を持ちなさい」


『でも……』


「キリシタン弾圧は事実行われていたことだわ。デリケートな問題よ。それを興味本意に生々しく描くのはどうか――貴方がひっかかっているのは其処なんでしょう?」