掌に結城さんの書いた指文字の感触が、残っている。

ひんやりとした冷たい手だった。

――今日は1日、この手を洗わない

強く心に決める。

総務部に戻ると、案の定。

鋭い目を幾つも向けられる。


机の上には書類が山積み。
「今日中に」と付箋をつけた書類が幾つかある。

書類をめくり、ウゲッっとしてパソコンを開いて、YAHO-の見出しに釘付けになった。


――「万萬詩悠、連載『空と君との間には』出版、発売日迫る


――ウソっ!! あれ、めちゃくちゃ好きだった。沢山江梨子の「空を詠む」より断然、良かった

「空と君との間には」を検索すると、沢山江梨子「空を詠む」同日発売という記事を見つけた。


万萬詩悠のデビュー作「限りなくグレーに近い空」は、群青小説新人賞を受賞して、モノクロの世界観が話題になって、万萬詩悠自身の素性も話題になった。