社内では、編集部でしか酸素吸入をしていなかった結城。

和泉は部外でも酸素吸入する姿を晒すには、よほど勇気がいっただろうと思う。


――気管切開はしたくないし、寝たきりにはなりたくないからな

結城は他人ごとを話すように、笑えない話を笑って文字にする。

結城が総務部を出ると、総務部最高齢の女子、田中奈美子が和泉に話しかけた。

「痛々しいわね。正直、彼のあんな姿は見たくないわ」

田中の目は平然を装い何でもない風に話すが、赤くなっている。

「あの体で、ベストセラー作家の担当を掛け持ちするのは、無理だと言われているそうよ」

「結城さん、外されるんですか」

「どうかしらね。でも、西村嘉行と梅川百冬は結城くんを離さないでしょうね」

田中は腕を組み、自信たっぷりに話す。

「結城さんって、そんなに凄いんですか」