「わたし、紗世さんではありません。和泉……」

結城の唇が言葉を塞ぐ。
声の主は「はっ」とするが、触れた唇の柔らかさに気が緩む。


「……結城さん」

脱力しかけた刹那、結城の体が強張り勢いよく押し剥がされる。

結城は見開かれた瞳に戸惑いながら、『……すまない』と呟く。

結城の口の動きを読んだ、和泉の頬に涙が伝う。

和泉は結城を睨む。


「わたし、紗世さんではありません。和泉です」

踵を返し、扉に向かう。


ベッド脇に腰掛けた結城が、サッと立ち上がり和泉の手首を掴む。


『……和泉』

結城の体がぐらりと揺れ、手首を掴んだ手が脱力する。


「結城……さん!?」

結城の体が崩れるように床に沈み、ドサリと音がする。


「結城さん!? 結城さん……結城さん!!」

和泉は結城の体を揺さぶる。


「結城さん、しっかりしてください」