結城は「紗世」と呼んでみる。

返事があろうはずはないと思いつつ、扉を見つめる。


「結城さん、お加減はいかがですか」


――!? 紗世


結城はサッと体を起こし、ベッドを降りようとして胸をギュッと押さえる。


「結城――さん!?」

慌てて駆け寄った声の主にしがみつき、抱きしめる。


『紗世』

乱れた息遣いと呼吸で呟いた名は、音にならない。


「……あの」

抱きしめた手にギュッと力がこもり、結城の胸が声の主の胸に密着する。

肩に掛かる結城の弱々しい息と、胸に伝わる不規則な鼓動に、声の主の体が火照る。


「――結城さん!?」

結城の薄茶色の瞳が潤んでいる。

声の主は結城に抱きしめられ見つめられているのに、その瞳がどこか虚ろだと感じる。


『紗世』

結城の口の動きを読み取り突き放そうとするが、さらに強く抱きしめられ身動きできない。