――泣きそうな顔した紗世をからかい、笑顔にするのが常だった


画用紙を閉じて思う。


――どんなに嘆いても、紗世はいない


麻生紗世の百面相に戸惑いながら癒された日々、二度ともどれない日々が結城の脳裡を過る。


『万萬詩悠の専属編集担当になって、結城さんがヨーデル文学賞取れたらいいな』


――あんな途方もない夢、あいつしか言わない。それでも「わかった」と素直に答えた……あいつの笑顔が見たくて


結城はこみ上げてくるものを堪える。


――紗世――


声を絞り出し呼んでみるが、音は出ずに微かな空気だけが漏れる。


『結城さん、小説たくさん書いてくださいね。村下夏幹なんか目じゃないくらいバンバン、ベストセラー飛ばして』


――あいつの大きすぎる期待に励まされた。本気で挑戦しようと思った……あいつが傍らにいれば