看護師は押し黙った結城に言う。


「入院してからずっと、詩乃さんとしか話していないでしょう」

結城は背を向けたままだ。

看護師は心電図モニターの波形と数値が漸く落ち着いたのを確認し、手を止める。

画用紙にペンを走らせる音がする。

結城が画用紙に書いた文字を見せようとし、体を捩る。

看護師は筆圧が弱く細い文字、だけど美しい文字を読む。


――ありがとう。楽になりました


「酸素吸入は辛いと思うけど、体に負担をかけないためだから。指示通りに……」


看護師は言いかけ、じゅうぶん解っているはずだと思い、腰を上げる。


酸素ボンベの濃度を調節し、酸素マスクを外し、結城の鼻にカニュラを差し込む。


「大丈夫? 苦しくなったら呼びなさい」

結城は看護師が、結城が頷くのを確認し病室を出る後ろ姿に「ありがとう」の手話をする。