詩乃はわかっているという顔をする。


「酸素吸入器を持ち歩くのって、行動範囲が狭まらないか、症状が進んでしまわないかとか、副作用はとか不安になるの」

看護師が結城の背を優しく擦りながら、淡々と話す。


「体調の悪いことがあからさまにわかってしまうのは辛いと思うのよ。職場の目も態度も、下手したら人間関係も変わってしまうかもしれないとか、昇進も不利にならないかとか」

詩乃は結城の後ろ姿を見つめている。


「若い人が酸素吸入器なんて稀だし、心労もあると思うの」

詩乃の表情が悲しげになり、潤んだ瞳を結城の後ろ姿から逸らす。


「サイン会には報道関係者も取材に来ていたんでしょう。倒れたこともニュースになっていたわね」

短いため息を漏らし顔を覆い、詩乃が病室を出る。


「我慢しなくていいのよ。思いを吐き出しなさい」