『事故に遭ったのが紗世ではなく俺だったなら……』

鋭い音が響く。

結城は打たれた頬に手を当てる。

詩乃が結城の頬を叩いた右手も赤くなっている。


「いい加減になさい。紗世さんが最期に呟いたのは、あなたの名だったのに……『結城さん、生きて』あなたの書いたマニュアルを抱きしめて」

結城は耳を塞ぎ、背を向ける。


「黒田さんも相田くんも、渡部さんも、西村先生や梅川先生も、皆があなたを心配して、応援してくれているの」

詩乃が背を向けた結城を諭す。


「あなたの『空と君との間には』を読んで、柳原さんも立ち直って頑張っているわ」


『頑張っても紗世は戻らない……』

結城は手話をしながら思い切り怒鳴るが、声は全く聞こえない。


『……紗世はもう……いない……』

結城の呼吸が乱れる。