冷や汗で背中が冷たく、座っているのがやっとだと思う。

「――結城くん。万萬詩悠、貴方だったのね。連載中からそうではないかと思っていたの。出版おめでとう」

結城は目の前の女性を見上げる。

「香保子」

結城よりも先に女性の名を呼んだのは、相田だった。

「ずっと、お礼を言いたいと思っていたの。ずいぶん経ってしまったけれど『ありがとう』」

『柳原』

「結城くん、無理しないでね。体大事にして。応援しているから」

安心し懸命に保っていた緊張が溶け、結城を脱力感が襲う。

柳原香保子が差し出した手を握ろうとして、結城の手は僅かにすれ違う。

「!? 由樹」

結城の体が椅子から崩れるように傾き、滑り落ちる。

「ゆ、結城くん!!」

沢山江梨子が悲鳴に似た声を上げる。

相田は咄嗟にガタッと、椅子を蹴って立ち上がり、結城を抱き留めた。