肩をポンポンと叩かれ、顔を上げると、彼の顔が目の前にある。

そっと手を取られ、掌にゆっくりとなぞられていく指文字。

1字1字丁寧に優しい感触で、胸が熱くなる。

指文字を繋げて言葉を汲み取る。


――驚かせてしまって、すまないな。喋れなくなって2年近くなる。リハビリ中なんだ


「そうなんですね」

不便だろうなと思う。
そして、ん? と何かが引っ掛かる。


――自分が不便なのは仕方ないんだけど、筆談は申し訳なくて


掌に書かれる指文字から、彼の悔しさや悲しさが伝わってくるようで、どうこたえたらいいんだろうと考える。


――喋れなくなったのは2度目だから。作家の「万萬詩悠」を知っているかな?


「はい、結城さんですよね。喋れなくなったことが小説を書き始めたきっかけと聞きました」


――そう、あの頃と同じ