「喋れなくなった理由は何ですか」

「さあ~リハビリしているが効果がないらしい」

水嶋は口を動かす暇があるなら、手を動かせよと思う。

「片付け、急ぎましょうか」

苛つくのを抑えて言う。

沢山江梨子と万萬詩悠、作品同時発売の垂れ幕とポスター前。

結城はカメラを向けられ、沢山江梨子との握手を求められ、思い切り営業スマイルをする。

沢山江梨子は結城の手をしっかりときつく握りしめ、ニコリと笑う。

目尻の皺には気づいていないようだ。

沢山江梨子の列に並んだ客よりも、万萬詩悠の列に並ぶ客の方が明らかに多い。


――不味いな

水嶋は舌打ちをし、こっそりと社に電話を入れる。


結城は撮影が終わると、リュックから酸素ボンベの缶を取り出し、口に運ぶ。

「!?……結城くん、大丈夫」

『ええ』