「市ノ瀬さん?」

顔をあげると、渋谷くんが立っていた。

「どうしたの?えっ、泣いて…。」

「ヒック、ウッ…」

私は涙が止まらずに

ずっと泣き続けていた。

「とにかく、トイレ行こう。」

渋谷くんは泣いてる私の腕を掴んで

立たせると歩き出した。

私はようやく泣き止んで

トイレで顔を洗った。

トイレから出て来ると渋谷くんが

廊下で待っていてくれた。

「渋谷くん、ごめんね。」

「ううん、市ノ瀬さん大丈夫?」

「どうしたの?」

「あっ、あのね…。」

そうだ私…

渋谷くんと付き合ってるのに

こんな事言えないよね…。

「ううん、なんでもないの…。

友達とケンカしちゃって…

それで…。」

「そっか…。」

渋谷くんは、それ以上は何も言わなかった。

「どうする?教室いける?」

「あっ…うん。」

でも、教室行きたくない…

けど授業出ないと渋谷くんが困るもんね…。

「サボっちゃおっか?!」

「えっ?」

渋谷くんは私を見てはにかんだ。

「でも、渋谷くん

先生に怒られちゃうよ……?」

「ははっ!そんなの大丈夫~!

行こうっ…!!」

渋谷くんは私の腕を掴んで走り出した。

私は渋谷くんの後ろを

一生懸命ついていった。

屋上の扉を開けると

空が高く青く澄んでいて

私の気持ちとは裏腹に

とても気持ちがよかった。

「なんか、いいね。」

渋谷くんが伸びをしながら言った。

「渋谷くんごめんね、付き合わせて。」

「なんで?俺、楽しいよ?」

「えっ?」

「好きな子と一緒にいられるなんて

楽しいじゃん。」

「ありがとう…。」

渋谷くんがこんなに笑ってるの

はじめて見たよ。

「それに…市ノ瀬さんが俺と

付き合ってくれるなんて

思わなかったから。」

「今さぁ俺…何してても楽しく感じる。」

「渋谷くん…。」

ふと、泰詩の顔が浮かんできた。

「……」

「市ノ瀬さん。」

「えっ?」

「俺、いい加減な気持ちじゃないから。

真剣だから…。

だから、大事にするからさ…。」

渋谷くんの真剣な顔…

気持ちが伝わってくる。

「私…」

気持ちに応えられないかもと思った。

「だから!今は…

好きじゃなくていいよ。

ゆっくりでいいから俺の事知ってよ。」

ゆっくり?

好きじゃなくてもいい?

それじゃあ渋谷くん、苦しくならない?

「でも…」

「大丈夫!!市ノ瀬さん

俺の事好きになるから!」

渋谷くんは、ニコって笑った。

その目は優しくて…辛かった。

渋谷くんを傷つけたくない。

そう思ったら…

「…よろしくお願いします…。

私、付き合った事ないから

付き合うのってよく分からないけど…

がんばります。」

私の口が勝手に開いてた…。

渋谷くんはそんな私を見て

また笑っていた。