✾幼き日の思い出✾

僕が育ったのは、
江戸の街から一千里ほど離れた山奥に住んでいた…。

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「お父様!!もう一回勝負です!!」

僕は、泥だらけになりながらも立ち上がった。

「蓮、お前、もうこれくらいにしろよ?
もう五回も付き合っただろ?」

普通の人よりも一回り大きいお父様は、
見かけも人一倍怖そうな顔をしていた。
けれども…
中身は、とても優しい何処にでも居るような父親だった。

「えぇー…つまんないっ!!もっともっと強くなりたいっ!!」

駄々をひたすら捏ねながら、背中を地べたにつけてはジタバタと暴れていた。
なにかうまくいかない時が、あればいつもそうやって駄々をこね続けていた。
いつもなら、抱っこをしてそのまま家に連れて帰り、頭を撫でながら、

「ごめんなぁ…俺、今日は疲れちゃって…」

ヘラヘラ笑いながら畳に横になる。
それがお父様の日課だった。


けれど、その日だけは違った…。
お父様は、近づき、抱き上げるかと思えばその場で僕を苦しいくらいに、力強く抱きしめた。
一刻…一刻と、いくつ時が経ったのか。
忘れるくらいに…。

お父様の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

そうして、いつものような言葉を呟いた…。

「ごめんなぁ、俺、今日は疲れちゃって…」

すると、哀しそうな顔をしながらもにかっと笑い出して、抱き上げて帰ってきた。

これが、お父様と僕との最後の会話で…最後の我が儘だった。


その夜に、お父様は戦に出掛けた。
お母様のすすり泣く声に目が覚めてしまった。
お母様は、まるでお父様の死を予知していたかのように号泣していた。