ああ、もう。
なんでこんなときまで、俺を喜ばせるんだよ。
「……美桜」
「ハルくん、やっと呼んでくれた……」
「美桜!! 行くなよ!!」
いくら強く抱きしめても、彼女は光の粒子になっていってしまう。
「ハルくん──」
「なんだ!?」
もう、声も聞き取れないほど薄れてしまった彼女の口元に一言も聞き逃さないよう、耳を寄せる。
『大好き』
俺のほうこそ──。
「大好きだ……!」
俺は、彼女の小さな桜色の唇に、自分の唇を重ねた。
彼女は、桜の花びらとなり、空へと舞い上がった。
ただ、それを涙で霞む視界で見つめる。
そして、ふと、掌を開いた。
手の中に、ひとつの花びらが残っていた。
美桜が、ふわりと微笑んだ気がした。
俺はそれをにぎりしめ、泣いた。
俺たちが一緒に過ごした時間は、たったの一週間で。
それでも……。
俺の隣には確かに君がいた。
【END】