俺に後頭部を叩かれた夕は、目を白黒させながらようやく起き上がった。



「何先輩だっけ?」

「美桜先輩」

「みおう先輩??」

「美しい桜って書く」



 夕は胸ポケに入っていた小さなノートを取り出し、パラパラとページをめくって何かを調べ出した。


 たしかこの前、ちらりと見てしまったことがあるが、全校の女子生徒の情報書いてなかったか?


 
「美桜先輩だったか?」

「ああ」



 何かあったのか?


 夕はノートから顔を上げた。


 
「驚くなよ、ハル」



 夕の顔つきは、いつも女子を前にしてヘラヘラしているものとはまったくの別物。



 
「美桜先輩なんて人は──この学校にはいない」