「食べないならもらうよ」
表情を変えず、奏太は箸だけを動かした。
両手を下ろし、箸を置き、空いた手で涙を拭う。
「米に味がないだなんて、ぶっ飛んだ感想だな」
飲み込むが、食べた気がしない。
手先が箸を動かすことをやめた。
いくら感情が敏感になっているとは言え、あの程度で落ち込むようでは弱い。
わかっているはずなのに、涙腺が言うことを聞かない。
噂が独り歩きしていたときのことを思い出す。
あのときのようにならなければ。
リビングは静寂に包まれる。
奏太が食器を置く微かな音でさえ、響いているように思える。
それほどの沈黙が流れた。
「そうやって食事を抜きがちになると、そのうち病院送りだな」
箸を進めるよう促すための言葉にも、今は動じない。
それほど、食欲はなかった。