「おいしい」




確かに届いたその言葉に、ハッと顔を上げた。




「全部おいしい」



「…あ、ありがと」




意識がどこかへ出掛けていた。





「…いただきます」








__「聞いたんだけど…」



そんな前置きのあと、彼女は私にこう言った。



「ご主人、病院で働いてらっしゃるの?」



どこからそういった情報を、だなんて聞けるわけがなく、一度上げた口角を維持することに必死だった。




それからペラペラと話し続けると、最終的に



「あと二、三年は大丈夫かしら?」



と質問を重ねられ、堪らず「わからないです」と答えてしまった。



何が とまでは言われなかったが、大体はわかっていた。



継続的に働けるかどうかを聞きたかっただけなのだと。



流れに置いて行かれている、そんな気がした。



職場の雰囲気は悪くない、いい人ばかりだ。



気にしなくていい…



焦らなくていい…




それなのに…。







「なんかあったの」



奏太の何気ない一言に、今は耐え切れず。







ボロボロ涙が溢れ出す。



白米を味わいながら、『美味しくない』と言葉が漏れる。



感情を制御する自分は見失った。






「おいしくない…」





いつもより柔らかい。



噛み締めるが味はない。