「…はは。季蛍は毎回そう言うな」
重い空気にしてしまうのが嫌で、言ってしまってから後悔したけれど。
蒼は笑って椅子を寄せてきた。
「少し長い入院したら、毎回言ってる。"職場戻りたくない"って」
「…私?」
「言ってるでしょ?毎回そんな弱音吐いてる」
「そうだっけ…」
「でも、毎回何ともない。季蛍だって覚えてないくらいんだもんな」
「…毎回ちょっと不安になるから」
「ま、わかるけどな」
ちょっとモヤモヤしていた霧が、少しずつ晴れていくような気がした。
「入院はしょうがないことなんだから、あんまり"ごめん"って言うなよ」
「…うん、頑張る」
他人から見れば『そんなこと』『そのくらい』
かもしれないが、自分にとってはひとつの悩み。
『そんなことで』
なんてことも、誰かに聞いてもらえるだけで楽になる。
誰かに聞いてもらえて初めて、
私の悩みは『そんなこと』なんだと、負担が軽くなる。
身近な "誰か" の存在は大きい。